インドと日本の間に横たわる不幸な過去の出来事


 

8月15日は日本では終戦記念日であり、インドでは独立記念日だ。そういうこともあってか、今日のTimes of Indiaでは先の対戦時の日本人とインド人にまつわる、とてもショッキングな記事が紹介されていた。

 

→日本兵たちはインド人の戦時捕虜たちを喰っていた

 

それは読み進めるにはとても辛い内容だった。当時日本軍はマレー半島攻略後、戦っていたイギリス軍のインド人兵士を次々と捕虜として支配下に置き、そのうちの少なくない人数がインド国民軍として新たに編成され、インパール作戦のためにビルマに派遣された。

 

 

しかし一部のインド人捕虜は英国軍兵士としてのイギリスへの忠誠心から、日本軍に寝返って宗主国であるイギリスに抵抗することを拒絶したことから、壮絶な運命を強いられることになる。彼らはマレー半島からニューギニアに移送され、そこで毎日10時間以上の労働を強いられ、労働に耐えられないものは生きた標的として新参日本兵の銃の訓練の犠牲となった。一発で仕留められなければ銃剣で止めを刺されたという。

 

 

その他ニューギニアまでの移送船での過酷な取り扱い、彼の地における凄惨を極めた虐待や拷問、処刑(斬首刑を含む)の描写が延々と描かれており、とても冷静に読むには耐えない。その多くは当時のthe Times of Indiaの記事からの引用だ。そこでは上官の指揮の下、インド人兵士やニューギニア現地人を殺し、人肉を食していた日本軍兵士たちの話も生々しく伝えられている。

 

 

肉食を忌み嫌い、こうした極限の状況下でさえ、ヒンドゥの兵士は日本兵が押し付けた牛肉に触れることを虐待を受ける覚悟で拒絶し、ムスリムの兵士はラマダンに際して断食を敢行したという。そうしたインド人からすれば、あえて人肉を食することができた日本兵たちは彼らの想像を超え、汚辱にまみれた侮蔑の対象だったに違いない。

 

 

しかしこの記事に対するインド人読者の反応は、思いのほか冷静だ。中には近く予定されているナレンドラ・モディ首相の訪日への悪影響を懸念する反応さえある。しかしそうした反応はあまりにも政治的で不純だろう。今、インドはヒンドゥ右派のBJPがインドの国政史上では久しぶりに単独過半数の議席を占める本格与党が誕生し、ナショナリズムに酔いしれるムードに覆われている。日本を憎め、と言っているわけではない。しかし中国をめぐる日印両国の関係を重視するあまり、こうしたことを「取るに足りないこと」として切り捨ててしまうのは、あまりにも短絡的、近視眼的に過ぎる。

 

 

日本とインドの間に横たわる、過去の凄惨な出来事に真摯に向き合う姿勢なしに、両国の真の意味での友好関係は築けない。何らかの思惑を持ってそれを直視することを避けるのなら、日本人とインド人の関係は、相手を互いに利用しあうだけの同床異夢の関係にしかならないのだろう。こうしたことが2度と起きないために、我々は何を学ぶべきなのか。両国民が腹を割って話せる関係こそ本当の友好関係ではないだろうか。そのことを忘れないでおこうと思う。

 

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コメント: 2
  • #1

    Jetavana (水曜日, 13 8月 2014 12:59)

    日系企業のインド駐在員、大学のフィールドワークでインドと関わりを持って20年になります。

    この記事は私にとっても衝撃的でした。

    記事の内容、日本軍による捕虜虐待行為は特段、新しい知見(これが事実かどうかは別として)を扱ったものではなく、それ自体には驚きは有りませんでしたが、むしろ大英帝国との独立闘争史の一部として第二次大戦を捉えることが主流だったインド社会が、異なる視点を持ち始めたことに興味を引きました。
    大半の日本人は「インドは親日で、両国間にいわゆる歴史問題などない」とのんきに考えているようですが、少し、楽観的に過ぎますね。当該記事のコメント欄には、日本に対する辛辣なコメントも多く、これからインドが大国に相応しいいアイデンティティのありかを求める過程で、日本人との歴史認識のズレが表面化して来るような予感があります。

  • #2

    管理人 (水曜日, 13 8月 2014 21:12)

    こんにちは、コメントありがとうございます。

    わたしもこの記事に対するインド人読者のコメントはとても興味深く思い、一つ一つ詳しく読んでしまいました。一口にインド人といっても、立場や近現代史への知識には大きな幅があるでしょうから、この記事に対する反応が一様ではないように思いました。ただしおっしゃるように、この記事が何か先の大戦をイギリス対インド独立派、それに日本は微力ながら協力した、というような単純なものの見方に、違った風を吹き込んだように思います。そしてわたしはインド人読者たちの、直情的で日本への辛らつな意見をむしろ印象よく受け取りました。逆にこうした過去の出来事を一顧だにせず、「モディ政権の訪日を邪魔するメディアの陰謀」というようなコメントこそ、残念に感じたのです。互いに痛みを共有できる間柄に、本当の友情は生まれると思うからです