2012/2/7 ●DIGHAのビーチを散歩する


昨日、浜辺から戻ったのは確か暗くなる前だったと思うが、今朝起きたらもう日が昇っていた。ゆっくり朝食を取ってから10時ごろ外に出る。まだなんとなく体が重い。海岸線に沿って歩いてみる。浜辺はなぜかコンクリートで敷き固められている。護岸沿いがプロムナードのようになって歩けるようになっており、出店が続いている。コンクリートが途切れたところは半円形にへこんだ砂浜になっており、観光に来たインド人の子供たちが波打ち際で遊んでいる。海で泳ぐという習慣はないらしい。スイムウエアを着ているような子供や大人はいない。ハーフパンツのようなものを履いて腰まで水に漬かり、ビーチボールを投げ合ってキャッキャ言ってるのが聞こえてくる。


さらに進むと、小高い丘にちょうど日本の松林のようになっているところがあった。遠めに見ると松の木に見えるが、「定本・インド花綴り」によると、この木はトキワギョリュウという木で、葉は松の葉が垂れ下がったように見える。落ちている葉を拾ってみると、トクサかアクアリウムの水草のように節があるのが特徴だ。


トキワギョリュウの林の木陰に腰を下ろし、眼下に広がる遠浅の砂浜に波が打ち寄せる音を聞いていると、ここから動きたくないとさえ思える。見ると何頭もの犬が死んだように横になって寝ている。きっと砂地が気持ちいいのだろう、腹さえ満たせば犬たちにとっても天国に違いない。

波打ち際で遊ぶインド人家族
波打ち際で遊ぶインド人家族

しばらく木陰でうだうだとした後、付近を散策し、お腹の調子が不安なので、ゆっくりと歩きながらホテルに帰ることにする。1泊千ルピー以上はしそうな大きなホテルがたくさん並んでいる。役人関係の保養所のようなものもあちこちに目立つ。多くがペンキも塗りたての目新しい建物だ。西ベンガル州政府が積極的に観光地開発を進めているらしく、開発を促進していることを知らせる看板に、昨年州政権を握ったばかりのママタ・ベナルジーの肖像画を入れて政権のPRに余念がない。

真新しいDIGHAのリゾートホテル
真新しいDIGHAのリゾートホテル
州政府の新首相ママタ女史もPRに余念がない
州政府の新首相ママタ女史もPRに余念がない

夜になってちょっと買い物に出たついでに、昨日夕日を見た浜辺のほうをチラッと見るとすごい人出だ。ずらっと並んだ露店に煌々と灯りがともり、その間をインド人の家族連れが行き来している。なるほど、昨日はお腹の調子が悪くて帰ったのだが、ここは昼間や夕方よりも夜が一番賑わうらしい。夜市(ナイトマーケット)なのだ。小さな漁村には不釣合いに街灯が立ち並んで、人が夜でも歩きやすくなっている。昼間とは打って変わってこんなにいたの?というくらい、観光客も、それを当て込んだいろんな物売りたちも繰り出している。

インドの観光産業に興味のある人は、この地を訪れれば相当いいスタディサンプルになりそうだ。元は何もない貧しい漁村だったところに相当額の公共投資が行われ、護岸工事とともに店舗設備などが整備され、一大観光リゾート地へと生まれ変わらせようとしている。もちろん、インドらしさ満載ではあるが、地元の人間も夜市には加わって、店を開く人もいれば、やかん一つでチャイ・コーヒーを売り歩くもの、冷蔵カートでアイスを売り歩くものなど、さまざまなレベルで地元振興策の恩恵に浴している。その辺の漁村の家から出てきたようなおばちゃんが、貝細工のアクセサリーを地べたに並べていたりする。

波打ち際の風景 商売人も忙しい
波打ち際の風景 商売人も忙しい

もう一つ印象に残ったのは、観光客相手のみやげ物の露店や町中の商店でも女性が店番をしている姿を結構見かけたことだ。何気ないことのように思えるが、女性のempowermentが進んでいないと見られない光景だ。店番(shopkeeping)は文字通り店と店の商品を守らないといけない。お金の計算もそうだが、インド人の中にはややこしい注文をする人間も多いし、出てきた品に言いがかりをつける人間、金額を負けろという人も多い。一つ一つに毅然と対応する必要があるのだが、きっと男性並みに信頼を得ているから店を任されているのだろうと想像する。

浜辺の近くまで歩いていくと、もう真っ暗だというのに家族連れが波消しブロックに座って暗い海を眺めている。自分もコーヒーを一つ注文して一緒になって暗い海と打ち寄せる波をしばらく眺めていた。