i-saksham 2017.01.27


 

ポワンというメールの着信音で目が覚めた。いつのまにか眠り込んでしまったらしい。スマホを見ると一時間くらい経っていた。i-sakshamのスタッフからだ。

 

「もう着きましたか?いまどちらにいますか?」

 

ジャムイにはNGOを訪ねてやってきた。少し前から時々連絡を取っていて、丁度インドを訪れるタイミングで訪問することにしたのだ。i-sakshamというそのNGOはビハール州で活動する教育分野のNGOだ。

 

インドで最も後進地域と評されるビハール州。その田舎で、しかもナクサルという過激テロリストの暗躍する地域で児童の教育支援を行っているという。

 

しかもその方法がとてもユニークで、コンピューターやタブレットを積極的に使って子供たちに算数や英語、コンピューターまで教える。映像を見る限り、牛ふんを練り込んだ土壁の、暗いインドの田舎特有の民家に子供たちが頭を付き合わせて、タブレットの画面を覗き込んでいる。

 

メールにある電話番号に連絡し、こちらのホテル名と部屋番号を知らせると、ほどなくスタッフが迎えにきた。バイクに乗ってi-sakshamのオフィスに向かった。

 

 

i-sakshamは若いグループだった。3人の若い創設者が活動を始めて5年と経たない。ジャムイとジャマルプールという町でそれぞれチームを組織し、それぞれのエリアで活動していた。ジャムイでは色々な村で子供たちに勉強を教える先生役の若者-tutorを60人ほど抱え、そのtutorたちに,

指導方法を教える。これがtutor trainingだ。ただし皆20代と若いので、決して成熟したスキルの持ち主ではなく、教えながら自分達も教育方法について試行錯誤を重ね、研究を重ねているといった感じだった。ただしやろうとしていることはとてもこのビハールという地域から受ける印象とは異なり、先進的で戦略的だった。

 

今、インドには中国からそれなりの品質を備えたスマホやタブレットが大量に入ってきている。彼らはその安価なタブレットをいくつか仕入れ、インターネットを駆使して教育に役立ちそうな無料のアプリ、ソフトウェアをダウンロードし、子供から20代の青年層に至るまで、町から離れた村々の受講希望者に触れる機会を提供している。子供たちにはゲーム感覚で英語や算数を学ばせ、就職機会に乏しい村の若者たちにはコンピューターってなに?という初歩的なところからワードやエクセル、パワーポイントなどの使い方まで教える。

 

受講内容は体系化されていて、毎回受講テーマと範囲、つまりコンテンツが定められていて、24回のレッスンで一区切りとなる。ここまでの体系を作り上げたこともすごい。

 

こうしてレッスンを受けた受講生の中から、今度はi-sakshamの活動を手伝ってみよう、という学生が現れ、tutorに応募する。tutorはtrainerから講義の内容や進め方を学び、教材や機器、本などのマテリアルを貸与され、それぞれが住む村で、今度はさらに若い世代にi-sakshamで体系化されたコンテンツを教えていく。

 

とてもよくできているな、と正直驚いた。彼らは創設5年、共同の創設者であるAditya,Shravan,Raviは3人とも大学でしっかり教育を受けた新進気鋭の社会活動家といえる。デリーの大学を出た彼らは、この活動を始めるためにShravanとRaviだけがこの地に移り住んだ。Adityaはデリーで中央政府の地域開発省に勤め、財源確保など後方支援として組織を支えているのだという。

 

何よりこれほど真摯で理知的、戦略的に社会の改革(とまで言い切っていい)を目指すインド人の若者に出会ったのは自分にとって初めての体験だった。例えばジャムイのオフィスには、毎日のように村にセッションに出掛けるスタッフたちの出発時間と現地到着時間を分単位で記録している表が壁に張られている。何気ないように見えるかも知れないが、インド人の大雑把な時間感覚を知るものからすれば、これだけでも驚愕すべきことだろう。こんな日本的なことがこのビハールの田舎町でこっそり行われているのだ。

 

ミーティングをするスタッフたち。みな20代前半だ。この日は日ごろの活動についての反省会をおこなっていたとのこと。
ミーティングをするスタッフたち。みな20代前半だ。この日は日ごろの活動についての反省会をおこなっていたとのこと。