2/18 ●マイトリ図書館でのできごと

マイトリ図書館
マイトリ図書館

朝からインドマイトリの会の事務所にお邪魔する。昨日に続いて真如苑の方が図書館に新書の寄贈などをされるそうで、普段図書館を利用している子供たちもたくさんやってくる。みんなとても恥ずかしがり屋で、でも礼儀正しい。子供たちが座って一心に本を読んでいる姿を見ていると、決して何か物珍しさで来ているのではなく、本当に本を読むのが好きなんだなあというのが伝わってきてちょっとした感動だった。

新書の寄贈が子供たちの前で披露された後、前日に引き続いてマジックを披露されているときに、とても印象的なシーンがあった。マジックを手伝ってもらうために選ばれた女の子に、トランプの数やマークを当てるために真如苑の方がいくつか質問をしているときだった。「行ってみたい国はどこですか?」という、日本人にとっては何気ない質問に女の子はとても困惑した様子だった。「行ってみたい国」。そんなことは今まで聞かれたこともなければ、想像したこともない。そんな表情に思えた。自分たち日本人だって、ある日遠い宇宙から異星人がやってきて、「銀河系の外で行ってみたい星はどこですか」とインタビューされたら、きっと同じような顔をするに違いない。

通訳の方に促されても何か鉛玉でも飲み込んでしまったかのように、女の子はしばらく声を発せなかったが、10秒ほどの間にものすごい速さで自分の頭の中にある色んな引き出しを開けたり閉めたりしたかのようにまばたきをして、ようやく目の前の人たちがジャパンから来たのだったということを思い出したようだ。小さく「ジャパン」と答えた。

この時は、きっとうまく質問を切り抜けられてほっとしただけのことだったかもしれない。でも、女の子はいつかふとした瞬間に、自分が何気なく答えたこの質問のことを思い出すだろうか。「ジャパン」ではどんなサブジーを食べているのかな。「ジャパン」にはたくさん「ミーター」があるのかな。「ジャパン」は「ゴラクプル」より大きいのかな。もし自分が「ジャパン」に行ったら、どんなだろう。

実際に彼女が将来、「ジャパン」に行くかどうか、それが「ジャパン」なのかは、どうでもよいのだ。テレビもなく、家に帰れば多分家事の手伝いや畑の手伝いもたくさんしているだろう女の子にとって、自分たちの村の外に違う生活がある。違うやり方で生きている人たちがいる。それに気づくことが、彼女の人生にどれだけ大きな影響を与えるだろう。それに興味を持ち、もっと知ろうとする。それが翻って自分たちの生活を見直す視点の礎になるはずだ。

何気ない質問が、あの女の子の前にある壁をコツコツコツ、と叩き、女の子が反対側からコツコツ、と蹴り返したら、小さなつま先が見えた。そんな感じに思えた。