※参照資料→Crime in India 2010
インドでの性犯罪は、法律によりいくつかに分けられる。「どういった行為が性犯罪と認められるか」ということについて日本の場合と若干異なる場合もあると思うので、それぞれ刑法の条文を並べてみた。実際の法律の運用にも日本とインドでは異なるに違いない。つまり、日本人がイメージする性犯罪と、インドで性犯罪として告発される事案との間には、若干のズレが生じる場合もあるということを頭に入れておくべきだ。
●強姦とは
強姦について、インドの刑法(IPC)375条には以下の記述がある。簡単に言えば、「女性の意思に反して、又は女性の同意なく、又は脅迫を用いて、又は女性が薬物などの影響下にある場合、又は同意の有無に関係なく女性が16歳未満の場合、男性が行為に及ぶ(挿入が必須条件)こと」を強姦と定義付けている。インドに特徴的なのは、4番目の条件にある、男性が自分と結婚してくれるものと信じて、女性が性行為の同意を与えたのに最終的に関係が破たんして結婚してくれなかった場合だ。この条文により、時々女性が自分を裏切った男性を強姦されたと刑事告訴するケースがあるようだ。刑期や罰則についての記述もあるが、割愛する。
A man is said to commit "rape" who, except in the case hereinafter excepted, has sexual intercourse with a woman under circumstances falling under any of the six following descriptions –
Firstly – Against her will.
Secondly – Without her consent.
Thirdly – With her consent, when her consent has been obtained by putting her or any person in whom she is interested in fear of death or of
hurt.
Fourthly – With her consent, when the man knows that he is not her husband, and that her consent is given because she believes that he is another man
to whom she is or believes herself to be lawfully married.
Fifthly – With her consent, when, at the time of giving such consent, by reason of unsoundness of mind or intoxication or the administration by him
personally or through another of any stupefying or unwholesome substance, she is unable to understand the nature and consequences of that to which she gives consent.
Sixthly – With or without her consent, when she is under sixteen years of age.
Explanation.-Penetration is sufficient to constitute the sexual intercourse necessary to the offence of rape.
Exception.-Sexual intercourse by a man with his own wife, the wife not being under fifteen years of age, is not rape.
ちなみにこのIPC376条は、男性が女性に対して行う強姦を規定しているが、男性による男性への強姦行為は規定していない。そのような行為は別の項目(377条、公序良俗に反する行為)にて取り扱われるようだ。
一方、日本の刑法177条には、次のような記述がある。
暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。
●強制わいせつ行為(molestation)とは
インドの刑法IPC354条には以下の記述がある。簡単に言えば「力ずくで女性の尊厳を損なう行為」とあり、刑罰について定められている。「挿入」を伴わない、わいせつな行為全般が含まれると思われる。
Whoever assaults or uses criminal force to any woman, intending to outrage or knowing it to be likely that he will there by outrage her modesty, shall be punished with imprisonment of either
description for a term which may extend to two years, or with fine, or with both.
一方、日本の刑法176条には強制わいせつについて以下の記述がある。
十三歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
●性的嫌がらせ(sexual harrasment)とは
インドの刑法IPC509条には、以下の記述がある。簡単に言えば「言動、或いは何かものを見せることによって、或いは女性のプライバシーを冒すことなどで女性の慎みを冒涜し、侮辱する行為」ということらしい。卑猥な言葉を掛けたり、最近ではわいせつな写真などをメールで送りつけるような行為もこの罪に触れる。インドではeve-teasingと呼ばれることがある。
Word, gesture or act intended to insult the modesty of a woman –
Whoever, intending to insult the modesty of any woman, utters any word, makes any sound or gesture, or exhibits any object, intending that such word or sound shall be
heard, or that such gesture or object shall be seen, by such woman, or intrudes upon the privacy of such woman, shall be punished with simple imprisonment for a term which may extend to one year,
or with fine, or with both.
●インドにおける性犯罪の増減
2000年以降、徐々に増加している。強姦(rape)の件数はこの10年で34.4%も増加している。性的嫌がらせ(sexual harrasment)の件数が少ないのは、犯罪としてあまり認知されていないのかもしれない。
●性犯罪の地域差について
Crime in India
2010には各州・直轄領別の件数が掲載されている。州ごとに件数に大きなばらつきがあるのは、人口差も大いに関係している。もっとも人口の多いウッタル・プラデーシュ州は2億人近い人が住み、もっとも少ないラクシャドウィープ直轄領は7万人しか居住していない。これら人口差の大きな各州を同じ土俵で見るために、発生率(人口10万人当たりの発生件数)を公表している。
人口が少ない割に性犯罪が頻発していることがデータで読みとれるのは、東北辺境のアッサム、メガラヤ、ミゾラム、トリプラ、アルナーチャル・プラデーシュ州だ。政情不安の伝えられるこれらの地域だが、混乱に乗じて性犯罪も発生しているのだろうか。何らかの地域特有の社会・文化的要因があるのかもしれない。それから人口が多く、性犯罪も頻発しているのは、マディヤ・プラデーシュ、アンドラ・プラデーシュ、チャッティースガルなどのインド中部諸州だ。これらの地域は、外国人、とりわけ観光客には比較的馴染みの薄い地域かもしれない。商都ムンバイを擁するマハラシュトラ州、デリー直轄領は平均より少し高い程度で、さまざまな社会指標に置いて悪名高い、ウッタル・プラデーシュ、ビハール、ハリヤナ州は意外なことに、どちらかというと低い方の州に入る。
Crime in India
2010では、インドの主要都市の性犯罪発生件数も掲載されている。いずれも100万人以上の人口を擁する大都市だ。ムンバイなどは1600万を超える人口を誇る。インドでは特に郊外、地方の農村ほど共同体がしっかりと力を持ち、治安が安定しているイメージがある。一方で都市部では匿名性が高く、犯罪も起きやすいイメージがある。しかしこれら主要都市の性犯罪の発生比率と、それら都市部の所在する州の発生率を比較してみると、強姦(rape)については都市の方が州平均より高い傾向にあるものの、強制わいせつ(molestation)や性的嫌がらせ(sexual
harrasment)については、それほど顕著な差は見られなかった。つまり、これらのデータを見る限りにおいては、地方より都市の方が性犯罪が多発していると言えるかどうか、微妙だ。
●性犯罪被害者の属性について
Crime in India
2010によると。2010年度の強姦(rape)は22172件、被害者は22193人に上る。そのうち、近親相姦による強姦の被害者は288人、全体の1.3%を占める。インドでは近親相姦の被害者が多いという印象があるものの、この数字は高いのか低いのか分からない。年代別では、最も割合として大きいのは18歳以上30歳未満の女性で57.4%を占める。18歳未満も25%の割合を占める。そのうち10歳未満の女児も571人、2.6%を占める。加害者と被害者が近親者、知り合い、顔見知りだったケースは21566件で、全体の97.3%に上るという。つまり強姦事件のほとんどが加害者と被害者が互いを知っている関係の中で起きていることになる。
※日本とインドの性犯罪の差異
日本の→犯罪白書平成22年版によると、平成21年(2009年)の強姦の認知件数は1402件、発生率(人口10万人あたりの発生件数)は1.1件となっている。一方インドでは認知件数22172件、発生率は1.9件となっていて、発生率はややインドの方が高い。
強制わいせつの認知件数は、日本では6688件、発生率が5.2件となっているのに対し、インドではそれぞれ40613件、3.4件となっており、発生率ではインドの方が低いという結果が出ている。
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