クリエイターとの出会い


翌日、Kasaという村に行ってみることにした。KasaはNashikからBoisarにやってくるまでの途中にある小さな集落で、道中ほとんど集落らしきものがなかった中で、唯一ちょっとした市場のようなものがバス道沿いに並んでいたところだ。この近くにwarli paintingに関係する店?らしきものがあるようにGoogle mapに載っている。

 

ややこしいのだが、Boisarの駅からDahanuまで電車に乗り、そこからリクシャでバススタンドまで行き、さらにKasa行きのバスに乗る。なんとも面倒で時間がかかるのだ。Kasaまでは2時間弱だった。

 

Kasa村。このようにバスが通る街道の両側に商店と露店が連なっている長いエリア。
Kasa村。このようにバスが通る街道の両側に商店と露店が連なっている長いエリア。

Kasaに到着し、露店や市場を冷かしながらブラブラと歩いてみた。warli paintingのお店ない?と近くの店の人に聞いてみたが、分からなかった。「あそこにあるんじゃないかな?」というのに従って歩いて行っても一向にない。うーん。よくあるパターンだ。小さな食堂に入って冷えたスプライトを頼み、テーブルについて飲んでいると、店の男の子が話しかけてきた。こういう田舎で英語は通じないだろうから、つたないヒンディー語で一生懸命今日自分がここに来た目的をしゃべる。

 

すると、その男の子には何か思い当たる節があるらしく、近くの別のお店でパコラを作って売っているお店の男の子に話を伝えてくれた。どうも、warli paintingおw描いている人を知っている、という話らしい。その人の携帯電話番号を知っているので連絡を取ってくれた。電話を替わってもらって、warli paintingに興味があってやってきた、ただの旅人なんですが、と少し恐縮して話すと、今からこちらにおいでよ、と言われた。

 

電話をつないでくれた男の子が乗り合いリクシャのドライバーに場所を伝えてくれ、乗り込んだ。Kasaの辻から7~8kmということだったので多分30分近くは走ったんじゃないかと思う。

 

出迎えてくれたMr.Rameshと一緒に彼の家の前で。warli painting の有名な作家だ。
出迎えてくれたMr.Rameshと一緒に彼の家の前で。warli painting の有名な作家だ。

 

道沿いにある小さな雑貨店でリクシャは止まり、自分を下ろしてくれた。そこで中年の男が、笑顔で自分を迎えてくれた。彼の名前はRameshと言う。warli paintingのアーチストだ、と語ってくれ、スクーターで村にある自分の家に案内してくれた。広い庭があり、大きな家が建っている。なんど少し前の1月末にwarli paintingの大きなイベントをやったんだ、と話してくれた。その名残で庭にはレンガのようなものが積まれていた。

 

家というには少し大きめの建物で、中はひんやりと涼しかった。鶏がひよこを連れてやって部屋に入ってくる。コッコッコと低くなく声だけが静かな室内に響いている。餌を期待しているのか時折、自分たちの前にやってくるが、少ししてまた離れていく。なんとも平和な時間だった。

 

自分はここをwarli paintingの情報発信をする施設にしたいんだ、とRameshは言った。まだあちこちが建設の途中だった。少しお金がたまっては人を呼んで作業させ、というインド式なのだろう。また、Rameshはこの辺りの村人を組織し、warli paintingを頼まれてあちこちに描きに行ったり、イベントを開いたりしているらしい。なんと話をしているうちに知ったのだが、昨日Dahanuの駅舎で見たwaeli paintingはRameshの仲間が描いたのだという。昨日見てとても感動しただけに、思わぬ偶然に驚いた。そして紙に描いた絵をいくつか見せてもらった。ムンバイのお店で売られたりしているらしい。つまり作家として作品を卸しているのだそうだ。

 

絵はとても精密でイマジネーションにあふれ、素晴らしかった。この辺りの村は、彼も含めAdivasi、つまりトライバル(部族の)村だということだった。インドにはあちこちにwarli paintingがありますね、それを見てとても興味が湧いてここまで来たんです、と言うと、ほかのところで描かれてあるのはみんな

真似にすぎませんよ、と言われた。なんだか「自分たちが描いたものだけが本物」と言わんばかりで、ずいぶん独りよがりだなあと思ったが、絵を見せてもらっていると、Rameshの言おうといることが何となくわかるような気がした。

 

warli paintingは、Adivasiの人たちの村の生活を素朴なタッチで描いたものだが、そこには村の日々の生活やお祭り、自然への深い知識をベースにした、少し超自然的な、イマジネーションの世界が描かれていた。こうしたものを描くには、一つにはAdivasiの村で見られる日常的な風景への深い観察、知識のようなものが必要に思えた。鶏が歩き回る風景からヤギを野原へ追う生活、井戸まで水を汲みに行く女の姿、かまどの前で料理をする風景、木々が風でざわめく音、時期になるとぷうんと匂う大柄で毒々しい花の香り、、、、自分がもしwarli paintingを描こうと思ったら、こういうところでしばらく生活してみる経験が必要ではないだろうか。そういう気がして仕方がなかった。

 

この辺りの村は決して豊かではないし、乾季のせいもあり村全体が干上がっているように見えた。それでもこういうところでしばらく生活できたら、どんなにいい経験になるだろう、と思った。

 

詳しく聞いてみると、わずか3週間ほど前にここで開いたワークショップにはイギリスなど欧米からの参加者もいたらしく、思ったより大きなものだったようだ。Rameshは招かれて時々イギリスなどでもWarli paintingの展示会やワークショップを開くのだという。このように人もあまり見かけない片田舎の村で生活を送っている彼と、話の大きさに少し戸惑った。