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インドには、行政からの下請けとして道路や公共のスペース、下水管などの清掃を行ったり、近隣の村落に住む人々からの依頼で民家のトイレの排せつ物の処理を担う「サファイ・カラムチャリ」(safai karmacharis)と呼ばれる人々がいる。ヴァンギやヴァルミキなどのコミュニティに属する不可触民たちが主にこれらの作業に従事している。
1993年に制定され、1995年に発効した法律により、インド全土でトイレに溜まった排泄物を掻き出す仕事(manual scavenging)に従事したり、人を雇って従事させたりすることは法律で禁じられた。またそういった作業が日常的に必要とされるトイレ(Dry Latrine)の新設はもちろん、古いものの維持も禁じられている。Dry
Latrineとは、いわゆる「落しっぱなし」のトイレのことで、水で流さないタイプのトイレを指す。違反者には1年以下の懲役または2000s以下の罰金、または両方が科せられることになっている。しかしこの法律が実際に適用されたケースはこれまでのところないらしい。
→Dry Latrineのイメージ
→the Employment of Manual
Scavengers and Construction of Dry Latrines (Prohibition) Act, 1993
なぜ法律でこれら人力によるトイレ掃除を禁じるかというと、人権上の配慮だけでなく、重篤な健康被害をもたらすからだ。トイレに溜まった排せつ物を取り扱う作業は、様々な病原菌に晒されやすい。例えばトラコーマのような病原菌による眼病で失明する人が後を絶たないという。また排せつ物を貯め込んだ大きなピットや下水道にもぐりこんで作業するような場合は、排泄物から発生するメタンガスを吸い込み、気管支系に重大な被害を及ぼすという。デリーの下水道掃除に携わる作業員の70%程度は何らかの感染症に罹っているというデータもあり、毎年40~50人の死亡者が出ているという。そのため、民間のトイレの汚物処理は全面禁止、都市の下水管清掃などはどうしても必要なことから、マニュアル(手作業)な仕事を減らして、バキュームやジェットウォッシャーのような機械の導入と、それらを扱うための訓練が検討されているそうだが、まだ計画段階のようだ。
元来、彼らは動物の死体処理や牛皮のなめし業など、インドの村落社会の周縁で付随的な作業に従事してきた不可触民たちであり、そうした人の排せつ物を扱うような作業にも従事するようになってからは、ますます偏見が強まり、どのカーストコミュニティからも距離を置かれ、業種替えや他の職業に就く道は実質的に閉ざされているのが現状だという。政府は法律でこうした作業を禁じるとともに、彼らに道路清掃のような、さしあたって教育程度や職業技術を必要としなくてもできるような仕事を斡旋し、新たに社会に適応して生活していけるようなリハビリテーション策を講じている。
インド政府は今のところ、こうした人々(Manual Scavenger)が全インドに50万人程度いると試算しているようだ。2011国勢調査の結果を見ると、人力による排せつ物の掻き出し(manual
scavenging)を必要とするトイレは全インドに79.4万穴ほどだ。しかし、むき出しの排水路に垂れ流されるカタチになっているトイレ、動物に供されるトイレについても、実質的に彼らに清掃が託される場合があるということで(動物に供される排泄物も、ただ食い荒らすだけなので、結局周辺の清掃を頼まれるのだそうだ)、彼らが清掃する対象となるトイレは全インドで206万穴(前回エントリーのⅢ、Ⅳの合計数)に及ぶという指摘もある。それ以外に集落の各所から集まってくる集合汚水ピットなどの掃除も受け持つのだそうだ。
法律の発効から17年経過して未だ全廃に至らない現状を憂慮し、政府内では新法の起案も検討されているようだ。これは法律の実効力を上げるとともに、下水道などの清掃にあたる人々への安全性やメタンガスなどからの防護をも自治体に義務付けることも新たに視野に入れているらしい。
→政府、manual scavenging廃絶に新法案を検討
地域別に、こうした人力での清掃が必要なトイレが残存しているトイレの数を国勢調査のデータをもとに出したのが、次のグラフだ。前回のエントリーの冒頭で、オディーシャ州の例を出したが、州別に比較すると(青と赤の棒グラフ)、ウッタル・プラデーシュ州(32.6万穴)やジャンムー&カシミール州(17.8万穴)の数が突出しているせいもあって、決して多いとは言えない。また、その州のトイレのある世帯のうち、そうした人力で排せつ物を掻き出す必要のあるトイレの占める割合を赤色の折れ線グラフで示したが、ウッタル・プラデーシュ州(2.8%)、マニプール州(2.2%)、オディーシャ州(1.2%)に比べて、ジャンムー&カシミール州の17.3%という数字は極端に高い数字となっている。
ちなみに、チャンディーガル州、シッキム州、ゴア直轄領、ラクシャドウィープ直轄領についてはこの種のトイレの残存数は0となっている。
数こそU.P州に負けてはいるが、既存のトイレに占める割合から考えると、Manual Scavengingというインドの悪しき社会遺産が最も色濃く残されているのは、意外なことにジャンムー&カシミール州ということになる。ジャンムー&カシミール州はムスリムの多い州だが、Valmikiのようなヒンドゥの不可触民がこれらの作業に従事しているのだそうだ。
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どんちゃん (日曜日, 19 1月 2014 20:55)
人権を無視したことが、世の中にあまりにも多すぎる。
jovanni (日曜日, 19 1月 2014 21:18)
人間はこの様な差別を平気で認める。
2000年前釈尊はこの問題に挑戦し平等を説いた。
しかし、敗れた。戦後の日本の様に改良便所を促すべき。
人権大国になってもらいたい。
カーリールー (日曜日, 19 1月 2014 21:40)
インドは今最も勤勉で頭の良い国だと思っていました。
ショックでした。
そういうのが当たり前になっている人の価値観は、例えもっともらしいコトを言った所で低いと思う。
頭の良い国なんだったら、即刻恥を知りなさい!!!!!!
まむちゃん (日曜日, 19 1月 2014 21:54)
人権を無視した国に発展は無い。
未だに制度で優越感を得ているインドは民度が低い。
自分の家族が出した排泄物は機械が無ければ自分らで始末せよ。
当たり前でっせ!
インドでえきれー (日曜日, 19 1月 2014 22:00)
カーストにすら区分されない「カースト外」は人間じゃない。
外人はカースト外。
だから、インド人が日本人をどうしようと勝手。
日本人に暴行してもいいと思っているインド人に大勢会ってきた。
過去訪れた70カ国中、最低の国。
melody (日曜日, 19 1月 2014 22:16)
インドの識字率は58.0%(男性69.0%、女性46.4%)
まず一番にやらなくちゃいけないのが教育でしょう?人間教育は100年かかると言われてる。ここをがんばってもらいたい。
東京かすてら (日曜日, 19 1月 2014 23:08)
日本だって少し昔は、「士農工商エタ非人」て差別は有ったし現在でも有る。汲み取り便所の清掃作業員の家族も差別されてましたよ。長い時間と教育が少しずつ解決していく問題。
川村 (日曜日, 19 1月 2014 23:26)
ガンジーというすばらしい英雄を持った国、やればできるのだから、速やかに意識改革をしてほしい。
あたる (日曜日, 19 1月 2014 23:34)
不条理すぎますね。
さくら (日曜日, 19 1月 2014 23:38)
かつて授業で習ったカースト制度がいまだに根強く残って、人間の尊厳すら守られない生活を余儀なくされていることを思うと悲しくなります。
蒼 (日曜日, 19 1月 2014 23:57)
どうしてなくならないんでしょうか‥‥。
インドもう勘弁! (月曜日, 20 1月 2014 02:33)
インドには何度か行ったけど(ほとんど仕事で)、本当に不衛生で人も意地が悪くて、先進国の人はしばらくいると必ず病気になる。インド人、日本でも東京などでたまに見かけるし、アメリカにも大勢移住してるけど、政府はあの国がどんな国で、あの人達がどんな国民か知ってビザを発給しているのか疑問。。。国から出ないで欲しい。あと、子沢山だから人口が増え続けて、将来どうなるんだろう??
けん (月曜日, 20 1月 2014 03:51)
以前、インドには売春婦にしかなれないカーストの人達がいるとメディアで報道していた
日本は労働基準法違反の罰則は軽微で殆んど守られてないが
レベルが違うな
しかし、日本もインドみたいになる可能性がないとは言えない
Kおじさん (月曜日, 20 1月 2014 05:47)
世界中、人がいるとこ同じですね。日本もインドも同じですね。違う点は日本のケースは賃金が高額である、という点ですね。人って凄まじい生き物ですね。
管理人 (火曜日, 21 1月 2014 20:10)
当サイトの管理人です。
当ページがYahoo ! ニュースで紹介されたようでたくさんの方にご覧いただきました。たくさんのコメント、ありがとうございます。
インドを何度訪れても、こうした仕事に携わる人々を目にする機会がなく、わたしも話に聞いたり本で読んだだけでしたが、動画などを見るとさすがに衝撃を受けました。
トイレ掃除に従事する人の問題については、手作業で処分する古いタイプのトイレが、徐々に地中浸透式のトイレに置き換えられて数が減少し、行政によるリハビリで他の職業訓練を受けることで、少しずつ改善されていくのを待つしかないのかもしれません。
また子供たちが学校に通い、高等教育にまで進むことで、別の将来が開けることも期待できると思います。カーストが幅を利かせる硬直的な社会を変える一つの大きな装置として教育があるのだとわたしは思っています。