→関連エントリー インドの観光白書2010 日本人のインド渡航に大きな変化
→関連エントリー インドのアライバルビザは機能しているか
○堅調に推移している
インド観光省は先月、観光白書INDIA TOURISM STATISTICS 2012と2013年度のインドへの渡航者動向の速報を発表した。
<参照資料>
→INDIA TOURISM STATISTICS 2012
それによると、2012年度の外国からインドへの渡航者数は657.8万人(前年比4.3%増)、2013年度は684.8万人で前年比4.1%増(速報値)とされ、渡航者数の伸びは鈍化しているものの、堅調といえる(注意:速報値は結構誤差があることが多く、正確な値は来年半ば頃公表される)。
昨年12月にデリーでの性犯罪事件が大きく報道され、一時女性観光客が減少したとも言われたが、2013年度の正確な統計値はまだ公表されていない。月別の渡航者数を確認する限り、2013年上半期の前年同月比にやや伸び悩みの傾向が見られるが、さほど深刻さは感じられず、むしろ下半期には回復する傾向が見られた。
なお、インドはアメリカやカナダなどの北米、イギリス、オーストラリア,東南アジアなどに多くの移民を送り出している。そうして現地で国籍を取得したインド系移民の一時里帰りも渡航者数に多く含まれている。また、ビジネスでインドを訪れる人も含まれ、渡航者数=観光客数ではない。
上位15カ国の2012年度の渡航者数は以下の通り。多少順位に変動があるものの、上位の顔ぶれは毎年ほとんど同じだ。日本は毎年およそ8位~10位の間にランクし、数%ずつ増加している。
順位 | 国名 | 渡航者数(人) |
1 | アメリカ | 1039947 |
2 | イギリス | 788170 |
3 | バングラデシュ | 487397 |
4 | スリランカ | 296983 |
5 | カナダ | 256021 |
6 | ドイツ | 254783 |
7 | フランス | 240674 |
8 | 日本 | 220015 |
9 | オーストラリア | 202105 |
10 | マレーシア | 195853 |
11 | ロシア | 177526 |
12 | 中国 | 168952 |
13 | シンガポール | 131452 |
14 | ネパール | 125375 |
15 | 韓国 | 109469 |
日本人のインド渡航者数の推移
○商用での渡航が増加
INDIA TOURISUM STATISTICSでは、渡航者が主に何の目的でインドを訪れているかを国籍ごとに整理し、まとめている。これはインド入国時に渡航者が入国管理局に提出するDisembarkation cardの記載を集計したものであり、発給されたビザの種類を集計したものではない。しかし入国時に管理官がビザとDisembarkation cardの内容をチェックするので、概ねビザの種類と矛盾はしないはずだ。
以前のエントリー、→インドの観光白書2010 日本人のインド渡航に大きな変化 では、日本を含む極東諸国のインド渡航者に、商用目的が増加していることを指摘した。今回公表されたTOURISUM STATISTICS 2012では、これら極東諸国以外でも商用目的での渡航者数が少しずつ増加していることが読み取れる。
下のグラフは、インド渡航者の多い国上位15カ国の商用目的渡航者の割合を2010年度と2012年度で比較したものだ。北米やイギリスなどはインド系移民の里帰りの渡航者が多いので、商用目的での渡航は少ない。一方中国、日本、台湾、韓国のほか、ドイツも商用目的渡航者の割合が目立つ。
次のグラフは、インド渡航者数は全体としてそれほど多くはないものの、商用目的での渡航者の割合が目立つ国をピックアップして2010年度と2012年度を比較したものだ。北欧諸国がいくつか並んでいるのが印象的だ。
最後に、下のグラフは日本人のインド渡航者の渡航目的の推移を表したものだ。棒グラフの青い部分が商用目的での渡航者の割合を示している。2008年末にムンバイ同時多発テロが起きて翌年、インドへの渡航を控える傾向が続いたが、奇妙なことにその次の2010年より観光目的の渡航者が激減し始めている。これが何を意味しているのか、よく分からない。近年は商用目的での渡航者の割合が高まり、6割程度となっている。
○渡航者の性別
下のグラフは全外国人のインドへの渡航者の性別の割合の推移を示したものである。青の部分が男性を表す。1996年(18年前)あたりと比較すると、男女のアンバランスが近年になってわずかに改善されつつあるが、依然として男性の割合の方が高い。なお、2001~2008年までデータの集計に不備があったらしく、不明分が少なからずある。
また、インドへの渡航者数が多い上位15カ国の渡航者性別比を比較したのが次のグラフだ。
日本に限って言えば、日本人のインドへの渡航者は、諸外国と比べても突出して男性渡航者の割合が高く、特に近年それが顕著になっている。以前のエントリー →インドの観光白書2010 日本人のインド渡航に大きな変化 では、日本人渡航者のこの男女のインバランスは商用目的の渡航者の急増が背景にあるのではないかと推察したが、まだ確証はない。
○アライバルビザは今
インドのvisa on arrival政策は2010年1月にフィンランド、日本、ルクセンブルク、ニュージーランド、シンガポールの5カ国を対象に始まった。その後2011年1月に、カンボジア、インドネシア、ベトナム、フィリピン、ラオス、ミャンマーなど6カ国の観光客にも対象が広げられた。適用対象国については現在インド内務省でフランスはじめ、ヨーロッパなど数十カ国に門戸を広げる方向で検討されていると伝えられているものの、まだ実施に至っていない。
当初デリー、ムンバイ、コルカタ、チェンナイの4空港に空路で入国する場合に制限されていたが、2013年8月にバンガロール、ハイデラバード、コーチ、トリヴァンドラムの4空港も加えられた。
2010年の開始後、アライバルビザの発給数は初年度の6549件から、2013年度の20294件まで4年で約3倍に増加した。全発給件数の30%を日本人観光客が占め、対象11カ国中上位5カ国だけで全発給件数の9割を占める。
日本人のインドへの観光目的に限定した渡航者実数は明らかにされていないが、先に示した2012年度の渡航者数220015人と、disembarkation cardに渡航目的を「観光・レジャー」と記した人の割合22.4%から算出すると、およそ49283人が観光目的渡航者、つまり観光ビザを必要とした人たちだったと推量することが可能だ。それに対し2012年度の日本人へのアライバルビザ発給件数は4604件となっており、先に算出した49283人の9.3%を占める。これが2012年時点でのインドのアライバルビザの普及率と考えられるだろうか?
また、どの都市の空港でどの程度のVoA(アライバルビザ)が発給されたか、インド観光省では2013年度の資料を公表しているので転記しておく。バンガロール、ハイデラバード、コーチ、トリヴァンドラムでは2013年8月下旬より開始されたため、実質4カ月程度の運用とあって認知度も低く、従って発給件数も少ない。
都市 | アライバルビザ発給件数 |
ニューデリー | 11046 |
ムンバイ | 4206 |
チェンナイ | 2815 |
コルカタ | 1351 |
バンガロール | 380 |
コーチ | 229 |
ハイデラバード | 165 |
トリヴァンドラム | 102 |
○日本人駐在員の状況
在インド日本大使館は、インドに進出する日本企業が2013年に1000社を超え、急増していると発表した。
→インドの日系企業数、1000社超える 5年で倍増(日本経済新聞)
外務省が発表している海外在留邦人数調査統計(平成25年要約版)によると、2012年10月1日時点で、インドの長期滞在者(企業関係者や公務員とその家族、留学生など)の総数は6916人(ただし永住者を除く)で、近年急増している。半数以上がデリーを中心とした北インドに在住しているという。
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